
トルネードではめずらしく「音楽」にまつわるプログラム。楽器やミュージシャン、音そのものを絵画で表現してきた名画を探してみると、驚くほどたくさん見つかります。また単に「色彩やリズムが音楽的だ」と感じる作品もたくさんありますね。このプログラムでは、中高生のみんなが「音楽」に対してどんな感覚を抱いているのかを表現につなげて、制作の幅を広げていきたいと思います。

こちらのふたりはご存知ですか?そう、ベートーベンとシューベルト。音楽史で大きな痕跡を残したふたりですが、同じ時代・場所で生きながら、その音楽性や人柄は実に「対極的だった」と言われています。詳しく知ると、クラシックはちょっと…という人でも、きっと興味をもつはず!

いずれも今から約200年前のウィーンの音楽家。ラボのみんなが身近に感じられるよう、今回は「もしこのふたりが現代のSNSを使っていたら…」という設定でそれぞれのプロフィールをご紹介!ベートーベンは「大家と喧嘩中のため、深夜にピアノの音がしても通報しないでください。」シューベルトは「シューベルティアーデというオフ会(宅飲み)を不定期開催。」

さらにベートーベンは、毎朝コーヒー豆の数をきっちり60粒ずつ数えて淹れていたというエピソードも。「妥協を許さない」「完璧主義者」ゆえに、作曲に集中するあまり食事をするのも忘れ、晩年は服もボロボロで周囲からは「変人」扱いされることも。気難しく怒りっぽい性格で、身近な人たちと激しい衝突を繰り返したそうな。しかし、それを上回る圧倒的なカリスマ性!難聴の苦悩を不屈の精神で乗り越えた、孤高の芸術家です。

一方、優しく謙虚で、とても温厚な性格だったシューベルト。友人たちを愛し、温かな人々に支えられ続けた音楽家でした。でも作曲に対する熱意は熱く、夢で浮かんだメロディもすぐに書き留められるようメガネをかけたまま寝たり、パンの耳にまでメモしたという逸話も!? 31年と短命ながら、1000曲もの作品を残したといわれています。かのベートーベン先輩を心から敬愛し、亡くなった際はベートーベンの隣に埋葬されたそうです。

SNSの形で見ることで「わー、大変だ」「困った人だね」などと笑いが起きたり、「さすが、芸術家って感じ」「憎めない」など、知れば知るほどそれぞれのキャラクター性が際立って感じられます。興味深いエピソードが次々に出てきて、クラシック音楽をそれほど聴かない人たちにもおもしろく響く。一言では言い表せない複雑さや二面性を持ち合わせているのも、芸術家の魅力です。

性格や信念のちがうこの2人を、視覚的に表すとしたら…?「ええー」「むずかしそう!」試しに気になった性格キーワードをひとつ選び、抽象図形が描かれたカードでその印象を表してみることに。「これかな?」「とりあえず選んでみるか」などと、それぞれ感覚的に手に取っていました。

形を選んだら、次は色や質感を加えていきます。ペン、色鉛筆、パステル、クレヨン…性格キーワードを表しやすい画材はどれだろう?さらにそれぞれの色も組み合わせて探っていきます。ラボのみんなは前回の「目」の制作でも、漠然としたイメージを表す制作をしています。とらえどころのないイメージを形にしていこう。

はっきりとした答えのない制作なので、迷いが出る子も多いかな?と様子みていましたが、それぞれ予想以上に思い切りのいいスタートです。感覚的に何かピンとくるとっかかりがあるようで、性格の視覚化に挑戦しはじめました。

頭の中だけで考えるのではなく、実際に手を動かしながら、画材と対話しつつ方向性を決めていく。この辺りは、ラボのみんなが今年のさまざまな制作を通して特に鍛えられた創造的なアプローチです。描きながら、色合いや力加減、色の重なり方を調整して、直感で探り出す。偶然できたものからインスピレーションを得ることも。

こちらは複数のとがった形のある図形を選び、そこに暖色系のカラーリングを加えていき…なるほど、"燃えている"ような絵面が浮かんできました。困難に負けじと戦う、強い意志を表現しようと工夫しています。

こちらはベートーベンに関するキーワード。「甥を愛しすぎて、その本人を追い込んでしまった」というエピソードを、丸を使って表現しようと工夫しています。中心にいるのが甥でしょうか?多方面から囲まれて、なかなか逃れられない感じ…

こちらはきっちりとした同じ形を、階段状にたんたんとした繰り返しで表現。順序立てて整理しようとしている感じが伝わる!言葉の意味や感覚をこんなふうに表現につなげられるのは、大人でもむずかしい制作のはずですが…みんなすごいな!

用意した図形の中には、自分の感覚を表現できそうなものがない、と白紙のカードに描き出す人も。またひとつ目ができたら、次のキーワードに挑戦する人も多数。繰り返し取り組むことで、だんだん自分の中に表現の引き出しが増えていくのがわかるようです。

一度みんなの作品を集めてみました。どれも不思議な色や形ばかりですが、こうして並べてみるととても美しい。「これすごくわかる」「うまい」「こういう描き方もあるのか」「これすご!」などとにぎやかな鑑賞タイム。他の人の作品を見ると、たくさんの発見があって刺激的な様子です。

いろんな性格を表した絵のカードができたところで、次のチャレンジ。ベートーベンかシューベルト、どちらかを選んで、もう少し大きな画面にその人らしさを表していきます。「うわ〜なるほど!」「どっちにしようかな?」複雑な人間性を持つ芸術家を絵に表すのは、そうかんたんなことではないはず。ここまでの制作を手がかりに、まずは背景色の台紙選びからスタート。

パッと何かが閃きそうな、質感や柄がプリントされた紙。「これ使えそう」「いいものあった」ちょっとしたお宝発掘のように、それぞれ作曲家らしさにつながる素材を探しています。どちらも繊細で複雑な人柄ですが、どんな面をクローズアップしよう?と考えながら素材集めをしていました。

画面にダイレクトに描くのもOKですが、いったん他の紙に描いたものを、切ったり動かしたり組み合わせしながら検討する方法が、この制作には向いているかもしれません。じわじわと全体像が見えてくる。

クラスみんなで同じふたりの人物を作っているはずですが…そこから想像される絵は、みんな見事にバラバラ!作り手の感性や捉え方まで見えてくるようで、どの作品もとても興味深いものでした。最後にどちらの作家なのかを当てっこするため、配置のバランスやレイアウトをそれぞれ特に意識していました。

自分の感覚を出し切れた人も、「うーん…これで出てるかな?」という人も、できたところまでで投票タイム!それぞれの作品を壁に貼り、ベートーベンっぽいかシューベルトっぽいか、自分以外の作品に投票していきました。これは作るのも難しかったけど、投票も輪をかけてむずかしい!?

満場一致で「シューベルトだ!」「ベートーベンでしょ」といわれた作品もありましたが、「どちらにも見える」と感想が分かれた作品もあり。中には、全く逆の印象を持たれていた作品も!本人に発表してもらいつつ、大いに盛り上がりました。次回からは、自分の好きな音楽をテーマに制作を進めます。好きなミュージシャンの話題になると「うわあ、いるいる!」とうれしそうな声があがりました。お楽しみに!

この回から、自分が好きな曲、またはミュージシャンをテーマにした制作がはじまります。それぞれの好きな音楽を聞き出してみると、邦楽ロック、ファンク、洋楽テクノなど実にさまざま。世代的に、ボカロも多い!スタッフは半分以上知らないものだらけでした…吹奏楽をしている人からは、クラシックの曲があがったり、意外だったのは中学2年生の「ドリカム!」お母さん世代とも楽しめそうですね。

感度の高い中高生たち、普段からよく音楽を聴いてる人も多く「ひとつに決めないといけないのか〜」「ありすぎて困る」という声もあるほどでした。どうやって聴いてるのか詳しく聞いてみると、やっぱりスマホ&イヤホンが多い。家ではアレクサスピーカーなどでも聞いているそうです。家族と一緒に聴く人は「車の中でかけてるよ」、でも「いやいや、ひとりでひっそり聴くでしょう」という人も。

現代の視覚文化ではアー写やMVなどでその世界観を伝えることが多いですが、昔の人たちはどんなふうに絵に表していたのでしょう?参考までに、カンディンスキーやパウル・クレーなどの抽象作品を紹介。ピカソも楽器やミュージシャンをテーマにした作品を数多く残しています。キュビズムの出発点といわれる『アヴィニョンの娘たち』も、「あれ?これも今のアー写っぽくない?」巨匠の表現はやっぱりすごい。

「アーティスト像かあ」「音楽性ね……」「え、難しくない?」スタートの時点では、全体像がぼんやりとしていて、つかみどころがない様子がうかがえます。音やメッセージ性を視覚情報へと変換するには、異分野をまたぐ高い壁が立ちはだかっているように感じられます。音や音楽、世界観をどう解釈し、どんな工夫で視覚化するのかが問われる新たな挑戦です。

まずは小さな手がかりを作るため、アーティストや曲の要素を言語化してみました。クラス全体がぐっと集中モードに入り、それぞれ悩みながら、でも好きな音楽に関することなのでやっぱりどこか楽しそう。中にはヘッドフォンで音楽を聴く姿もあり、その世界観に浸るように、じっくり考えながら書き出していました。

"ここが好き"という自分の感覚だけが頼りの言葉探し。「まあこんな感じかな?」「こっち系なんだけど、ちょっとちがう」など、書き出していくうちに、言葉の微妙なニュアンスの違いにも敏感になっていく様子。「ううーん、ちょうどいい言葉がない」という声もありましたが、それはきっと自分の表現したい感覚がはっきりしてきた、ということでしょう。

書き出した中からいくつかキーワードを選んで、前回のように抽象化した図像を描いてみました。ベートーベンとシューベルトの時に一度試しているので、スムーズに手が動くようです。最初から完成形を求めず、描きながら探る、というスタンスで進めていきました。

画材はクレヨンやパステルが人気でした。そして手がかりを探るように、カードを何枚も使って、いろんな形を試したり、絶妙な色使いで自分の中にある感情や感覚と照らし合わせていました。表現したいことがひとつではない分、あれもこれも複合的に取り入れようとしている様子。

カードの枚数が増えてきたところで、作品全体のラフ制作に入りました。色画用紙をあてて、外して、あれこれ入れ替えながら、徐々に形を作り上げていくアプローチ。既存の答えがない表現の中で、自分が「これだ」とピンとくる絵面を、感覚的に見つけ出します。

ライブで演奏しているイメージが強いアーティストを選んだ人は、ステージのように広がる横長画面で構成を考えていました。ライブに行くと、その時々の大迫力の音やリズムだけではなく、照明や熱を持ったオーディエンスの動きなども一体となって、強いエネルギーが感じられます。

音の重なり、それも「変な響き」というのが表現したいんだけど、「どうしたらいいんだ!」と頭を抱えていた人が。なんとおもしろそうな悩み!考えても答えが見えない時こそ、手と目で試してみるのがおすすめです。へんな形の紙片を探して、画面の上で試してみよう!

「きれいに並べるんじゃなくて、こうか?!」などと紙を混ぜてぐちゃぐちゃに。少し手がかりが掴めたようで「いいかも!」コラージュが、自分の感覚と視覚イメージの橋渡しをしてくれたようです。

3人バンドを選んだ人は、メンバーそれぞれのキャラクターに感じる色を手がかりに、制作を進めていました。ポップな色合いは、この時点でもう生き生きと明るい印象の音楽を想像させます。

今回の制作には、コラージュでも描画でも使いやすいようにイラストレーションボードを用意しました。大まかな構成か見えてきたら、順次下描きや地塗りへ。「この部分が特に好き」「世界観はこんな感じ」「推しはここ!」など、自分が感じている音楽に対しての感情が伝わるような作品にしてなるといいですね。次回に続きます!

前回の制作では、いつもよりも長く構想を練るために時間を割きました。みんなたくさん悩みながらも、どこか楽しそうにラフ制作をしていた様子です。音楽の魅力はもちろん、中高生たちの感度の高さを改めて感じます。それぞれ自分の内面に向き合って、思い描くアーティスト像を表現しようとすごく熱心に取り組んでいます。

好きなアーティストだからこそ、たくさんの情報を見聞きしていて、広く深く知っています。でも逆に、その溢れんばかりの感情をどう表現に結びつけていくのか、整理することがとても難しい様子です。どこから表現しよう?どこまで表現しよう?と迷ってなかなか着手できない人こそ、とりあえずの一手、二手を始めてみよう!

こちらは背景ベースの制作から試している人。この上にいろいろと描き足しをしていきますが、まずはひと塗りするだけでも全体の雰囲気や方向性がある程度定まります。ここからどんな色やタッチを加えていこう?できるだけ自分の表現したい印象に近づけていきたいですね。

「緑のイメージなんだけど、なんか普通の緑じゃないんだよな〜」と、ベースカラーを研究する人も。経験がある人ほど、ちょっとした色味の違いにも敏感です。そして絵の具は、塗りたての時と乾いた後では、色が少し変わります。念入りに検討中…

こちらは早くも制作に勢いがついてきています!テクノミュージックの均一なリズム感を、モノトーンで作るマス目の表現に置き換えているようです。でも筆のタッチはソフトな印象。コラージュの時よりも、自分で使いたい画材を選んで描いた方が良いタイプの人も、少なからずいますね。

こちらでは、大胆にアーティストの人物像を描きはじめている人も。モディリアーニのようなすらりとしたプロポーション。色使いやデフォルメされた表現に、どこかスマートで都会的な印象を感じます。

一方、同じように人物像を描いても、敢えてスポンジでふんわりとした表現を狙う人も。ここから描きこむもよし、さらにぼかすもよし。今回のプログララムのテーマは、普段自分で自由に描くのとは少しちがった表現をするきっかけにもなっているようです。

エネルギーあふれるざっくりとした絵の具のタッチに加え、半透明のふわりとした紙をコラージュした不思議なコントラスト。思いきり明暗がついて、深みのある作品になっていきそう。

表現の工夫はこちらにも。絵の具のベタ塗りだけでは均一的すぎたようで、もっと雰囲気が滲み出るように!とクレヨンのスクラッチ技法で、細密な線描をしていました。それぞれ画材や表現を工夫できるのは、長年いろんな制作をしているからこそ。ラボのみんなの引き出しの多さを感じます。

現代的なポップソングを歌うアーティストを選んでいた人。好きな曲が「とにかくせわしなくて、やかましくて、元気な感じ」とのことで、絵を見るだけでそれがすごくよく伝わりますね、うまい!線や色づかいはもちろん、描かれているモチーフからも、とにかく動きたいパワーがみなぎっている。

アーティストには、その容姿が魅力的なタイプも多いもの。そのシルエットをいかしたり、ポーズによっても「らしさ」が出せそうですが…アーティスト像をどこまで具体的に描くか、または敢えて描かないで止めておこうか、悩んでいる人もいました。抽象だからこそ伝わるものもあるかもしれません。

「で、できた〜」「めっちゃ疲れた!」「できたけど、難しかった!」自分の中から表現をしぼり出すような制作でしたね。どれひとつとっても似ている作品がない、音楽×描き手の個性あふれる作品が並びました。1点1点に見応えがあり、すごい!