この月のラボは、美術の歴史を様々な切り口から見て、アートの面白さや奥深さを体験していきます。はじめに、ランダムに並べられた画家のカードの中から、好きなものを3枚ずつ選んでいきました。「知ってる!」「知らない!」「作品と結びついてない!」など早くも盛り上がっていました。
3名の作家の運命のカードを選び終えたところで、ゲームをしますよ!「なに?なに?」「なにが始まるの?」1400年代から現代までのアーティストの数、全130名ほど。カードには名前、生年/没年、国が書かれています。
はじめに競うのは…「一番の長生きした画家は、だれでしょう?」それぞれ選んだ画家の没年齢を計算して、最も長寿だったアーティストを探し出します。「はい!86歳!」「こっちは92歳!」「わ、99歳です!」「へえー!誰?」今回用意したカードの中では、アメリカの女性画家ジョージア・オキーフが最も長生きでした。
女性の方が長生きだと言われますが、女性画家自体が少ないので何となく納得がいきますね。1位のオキーフのカードを持っていた人は、なんと賞金1億アートン(架空のお札)を獲得!2位、3位の人にもそれぞれ5千アートン、2千アートンの賞金が進呈され、大盛り上がりです。
次に競ったのは、「最も早く生まれたアーティストは、だれだ?!」古い時代の画家のカードを持っている人は大喜び。その中でも最も古かったのは、油絵の技法を確立したと言われる画家ヤン・ファン・エイクでした。「知らなかった」「こんな人がいたんだ」そしてこちらも1位〜3位まで、賞金が贈られました。おお〜!!
3回目に競ったのは、「短命だった画家は、だれでしょう?」先ほどの長寿に対し、ものすごく若くして亡くなった画家も少なくありません。ルネサンスに活躍したラファエロをはじめ、点描技法で有名なスーラ、ゴッホやモディリアーニ、キース・ヘリングなども短命でした。「若すぎる…」と残念そうな声もあがりました。
こうして画家の人生の長さや時代などを比較してみるだけでも、意外性やいろいろな発見につながってみんなおもしろそうに見ていました。「”ジョルジュ”がつく人が複数いる」なんて盛り上がりも。ちなみに賞金は、次回のプログラムで使う"資金"になりますからね!大事に持っていてください。
さらにこの回は、画家の人生を様々な切り口から視覚化していきます。ここからは工作も交えつつ、画家の人生を鑑賞していきましょう。まずは、生きた年数の長さを視覚化するため、1年=1cmの目盛をつけて棒を作ります。名付けて「人生定規」
人生定規は、その長さを見るだけでもハッとしてしまう。「エゴン・シーレの定規は30cmもない」「オキーフは99歳!ほぼ1mだよ、すごい。」子どもから大人まで、誰もが見たらすぐにわかる長さのちがい。自然とそれぞれの画家の人生を想像してしまいます。
さらに、画家の代表作のポストカードを、人生定規に結びつけていきます。制作した年の情報を確認し、何歳の時にどんな作品を作ったのかを照合していきました。「この画家、晩年まで作品を描いてる」「こっちの画家も!」「けっこう多いね」作業しながら、いろんな発見が出てきます。
たくさんの画家たちの人生定規ができたら、世界史の年表上に重ねていきました。それぞれがどんな時代に生きていたのか、そしてどんな表現をしていたのか、その時代背景とともに見える化していきました。
そして最後はマッピング。世界地図上に各作家の出身地をピンで打ち、どの地域の文化的背景をもつ人なのかを視覚化していきました。今回トルネードでセレクトした作家は、フランスを中心に、ヨーロッパ出身の画家が多くいました。ついで日本、スイスやロシアなどの作家も。
いろいろな切り口から美術の世界をみることで、歴史上の画家がどの時期に活躍し、どのような作品を残したか、何歳まで生きたか、また同時代の画家は誰か、時代による作品の傾向、どこに住んでいた画家か…など一目瞭然に「見える化」されました。みんな興味をもって鑑賞しつつ、自然と感想が出てきました。
「この時代に、こんな画風の人がいたんだ」「ルネサンスと雪舟は同時代なんだ。雪舟やば!長生きだし」「ラファエロは10代でこの作品描いたの!?」「天才でしょ」「マネはどこだっけ?」「ここじゃない?1900年代」「長谷川(等伯)さん制作年不明だった…」「逆にほとんどの作品の制作年がわかってるの凄くない?」「たしかに」…おもしろすぎて、止まらない!
前回、各地域・各時代の画家たちの人生とその作品をずらりと並べ、様々な切り口から美術の歴史を見ていきました。自分が選んだ3名の画家が描いた作品のカードは、今回の体験では自分の「コレクション」となり、活動の中で重要なアイテムとなりますよ。
ラボのみなさんは、普段からいろいろな展覧会に足を運ぶ人が多いようです。美術館、ギャラリーなどでは様々な企画展が開催されていますね。今回はなんと「観に行く側」から「企画する側」に立ち位置を変えた体験をしていきます。つまり「どんな展覧会をするか」を考えていきます。
参考までに各地でどんな展覧会が企画されているのかチラシを見てみると...「アイドル」「アート×食事」「動物のすがた」「部屋」など、各展示の着目点は実に様々!同じ作品でも、展覧会の見せ方・切り取り方ひとつで、その見え方や感じ方が変わることもありますから、キュレーションはとてもおもしろい仕事です。
今回はグループワークで展覧会の企画を体験していきます。前回自分で選んだ3名の画家の作品カードに加え、他の人が持ってる作品カードもグループ内のコレクションになっていくので、一気に幅が広がります。グループのメンバーが集まったところで、それぞれの持ち作品を確認していきました。
もともと取り上げた作家が既に歴代の重要画家たちばかりなので、当然どのチームも、ため息がでるほどのゴージャスなラインナップ…現実世界ではまずありえないほどの豪華な組み合わせで作品が集まっています。問題はこれらをどう見せていくのか?その企画力が試されます。
各地の展覧会チラシを見て、それぞれの展覧会には必ず独自のキーワードがありました。そこで企画会議のスタートは、自分たちの手持ちの作品カードでどんなキーワードが使えそうか、いくつも書き出し始めるチームが多数。
せっかくなら、魅力的な展覧会を作りたい...高校生が本気モード!どんな切り口があり得るのか、自分なりに納得のいく、キレのあるキーワードを探りたいと検討していました。自分たちが行きたくなるか、そそられるかどうか?普段からいろんな展示を見ている経験もいかされます。
例えば同じ"青"というテーマでも、人間と青/世界の青/祭りと青など、その扱い方によって全然ちがう展覧会になりそうだからおもしろい!「画家性格診断」「人と花」「髪型に注目」「青をテーマに」「手をクローズアップ」「絵の中の草花」いろんな案が見えてきました。
各グループのテーマが固まりはじめたことで、展示に使えそうな作品と、そうでない作品があることに気づき始めました。どんな名画であっても、みんな冷静に「これは良いね」「これは今回使わないかもね」など思い切りよく選別。でも、若冲さまの虎が…エッシャーさまの昼と夜が…ああ、もったいない!
こちらのチームには必要なくても、隣のチームには必要な作品かもしれません。そこで、ここからはオークションゲームの時間。不要な作品はオークションに出し、欲しい作品を新たにゲットしながら、グループ間でトレードしていきましょう。出品作品を募ると、全てのチームからエントリーがありました。
落札するためには資金が必要。そういえば...前回獲得した賞金あるぞ!「それで前回のゲームで賞金が出たのかあ!」とみんな納得。持ち金はチームで共有となり、それぞれの合計額は…「1億4千万アートンです」「4億2千万アートンあります!」ひゃー!
オークションの鐘とハンマーも登場。「なんであるの!?」「いいねえ」と大爆笑。なんだかおもしろそうだぞ、という期待感の中、まずは資金の少ないチームが出品した作品から、オークション開始!
いざ始めてみると、新たな作品を購入し、コレクションを増やしたいチームがほとんどでした。資金を増やしたいチームは「あなたのチームのテーマにとてもいいですよ」と出品作品の特徴を積極的にアピール。「た、確かにほしい…」「いくらですか?」「よし!買っちゃおう」カーン!落札のハンマーが鳴り響きます。
みんなの作品を見る目が、いつもと違います。「次はどんな絵?」「この絵、よくみたら草原の中なんだ」「企画テーマにめっちゃ合う!」「いくらですか!?」「こっちのチームも欲しいんだけど」「これ、売っちゃう?」売り手と買い手のバトルが続いていきます。
こっちもあっちも「絶対欲しい!」欲望の眼差しと、資金繰りのための計画で、目も頭もフル回転。複数チームが同じ作品を購入したいと競合した場合には、もちろん価値がどんどんつり上がります。より多くの金額を出せるチームの手に渡り「やったー!1億で落札!」やけにリアルだ…
出品作品をひととおりオークションにかけ、売れ残った作品をさらにチーム間で交渉取引をしていきました。買い逃した作品をここでゲットしたり、お金ではなく「物物交換でどうですか!?」などと交渉しはじめるチームも。コレクションにかける熱が冷めない様子。
無事、各チームの企画に合うコレクションが揃いました。どのグループのコレクションも、スタート時よりかなり洗練されて、がんばって獲得した満足感や達成感があるようです。真剣に作品を見て、探し、いろんな作品が身近になったようでした。
次回も引き続き、今回のチームと同じメンバーで、それぞれの展覧会を形にしていきます。コレクションを増やしながら、企画の中身についての相談も深まり、チームごとに展覧会のタイトル案や、展示順などのイメージも出てきている様子です。楽しみですね!
前回、チームごとに収集するテーマを決め、オークションで獲得した作品のコレクション。それらを元に、この回は展覧会についての企画提案をまとめていく体験です。どの作品を、どんな順番で、どう展示して見せていく?引き続きグループワークで、意見を出し合いながら進めます。
展示プランで大切なのは、展示順だけではありません。それぞれの作品のサイズも重要な要素です。そこで実際の作品サイズのデータをもとに、1/10サイズに統一して模写をしてみることに。参考までにモナ・リザの大きさで試して見せると「このサイズなんだ!?」「ちっさ!」
ここまでの体験で扱っていたポストカードでは感じられなかった、作品の大きさも含めて検討してみると、自分たちのコレクションの見え方がまたずいぶんと変わりそう。各作品の1/10サイズの画用紙を用意しながら「これは絶対時間が足りなくなりそう!」と、それぞれすぐに制作にとりかかりました。
ルーブル美術館にあるモナ・リザよりもさらに小さいのが、マルセル・デュシャンがモナ・リザのポストカードに描き加えて作った、修正レディ・メイド作品『L.H.O.O.Q』。あまりの小ささに「これ描けるのかな?」もはや切手以下のサイズ感...
その一方で、同じダヴィンチの『最後の晩餐』は、1/10でも「こんな!」元は幅9.1m、高さ4.2mにわたる壁画ですから、縮小してもその迫力は圧倒的。普通に模写するだけでもかなりの時間がかかりそうですが、グループ内で協力して進めていました。
使う画材は、作品に合わせてセレクトしていきました。もちろん自分が使いやすいものを選んでOKですが、画風に合った雰囲気が出るように複数の画材を組み合わせるなどして工夫していた様子。
細かくて絶対無理でしょ!というような名画も、ミニチュアになると、とたんに面白くなるようです。ディティールを描き込むことに限界がある反面、自然と全体の雰囲気を捉えた制作になっていくようで、「小さい模写楽しすぎる」。細部まで観察できる人も多いので、描き込みの加減を探りながら進めました。
自分のお気に入りの画家がいる子は「この作品だけは、ちゃんと描きたい!」と、とてもていねいに模写していました。楽しそうですね!好きなだけあって、作品の特徴を掴むのも早くてびっくりです。
基本的にシンプルな線と色面で描かれているキース・ヘリングの作品。特徴がわかりやすく、ささっと描くだけでも、誰が見ても「キースだ!」細かな制作が続いた後の、ちょっと箸休め的になる模写でした。
いろんな作家の作品を複数描いていく中で、それぞれの特徴や雰囲気作りのポイントを、素早く捉える感覚が掴めた様子の人も。描き始めたばかりの段階なのに「もう何の絵かわかる!」
色の"強さ"の再現までコツをつかんできた人も。サインペンや色鉛筆など、何を使えばその作品らしさが出るのかの選択も的確になっていき、周りの人たちが思わず「うますぎ!」とドッと盛り上がる場面も。「ペンでここまでできるんだ」「すご!」
できた模写作品を、展覧会の壁面に見立てたボードに並べていきます。ここで改めて、展示順を考えていきました。サイズの大小や、色や画風のちがいなどを見ながら、あらためて「どうしよう」と迷うグループも。話し合いをしながら、企画の最後の調整をしていきました。
展覧会は、タイトルの魅力も大事。使われている言葉によって、その展覧会に行きたいかどうか、興味を引く度合いが変わることがありますよね。言葉の持つ力で、展示や作品の魅力をいっそう引き立てられるかな?
展示テーマやコンセプトなどをより詳しく伝えたいというグループは、追加でキャプションも制作していました。もちろんこれも1/10で、ちまちまと小さな文字を描きこんでいました。なんだか楽しそう。
余裕のあったクラスでは、最後に少しプレゼンをしてもらうことに。全グループの企画の方向性が見事にバラバラで、「たまたま絵画の中の"手"が面白いと思った」「青い部分に注目してみた」など、それぞれ鑑賞時のふとした気づきから企画が膨らんでいました。
3回かけて探索してきた美術の歴史と、展覧会企画の体験。駆け足ではありましたが、学年問わずグループで楽しく活動ができ、それぞれ「今日の作業量はやばかった」「かなりがんばったよ!」「できて良かった…」などの声と共に、やり切った感が満点な様子でした。