20世紀ドイツで発足したデザイン学校・バウハウスの教師として知られる、モホリ・ナジ。デジタル技術が発達していなかった時代に、早くも「新しい視覚(ニュービジョン)」を提唱し、人間の視覚コミュニケーションのあり方を広げたアーティストです。
人は何かを見る時、例えば「ハサミがある」「⚪︎⚪︎と書いてある」など無意識のうちに自分で情報を取捨選択しています。でもこんなふうにものが真っ白い状態だと...「⚪︎⚪︎の形だ」「尖っている」「こんなカーブがある」など、普段とは少し違う見方をするようにもなります。
まずはいろんなものを教室中に散りばめて、雑多な環境を作りました。テーブルに置いたり金具に引っ掛けて吊ってみたり。「なんだこれ?」の環境のできあがり。
一見、何の変哲もないただのロープとハンギングバーに見えますが...「線がある」「丸がある」見方を変えると、こんなふうにひとつの視点の中にもいろんな形が混ざり合っていることがわかります。
視覚トレーニングのため、まずは散らかした教室の中からみんなで文字を探すゲームに挑戦!教室内でアルファベットを探し出し、AからZまでの文字を制覇せよ。ルールは「ものを動かさないこと」「どの角度から見ても良い」
何チームかに分かれて、文字探しの開始。「T発見!」「Oはけっこうあるよ」文字ぽいものを見つけ次第すぐに写真撮影して、文字のコレクションを集めていきます。
教室内をぐるぐる歩き回りながら、見つけやすい文字については、制限時間の半分も経たないうちにどのチームもすいすい発見&撮影終了。背景が入ると分かりにくくなるものは、裏にカラーボードを置いて写真に収めます。
見つけにくい文字のひとつだった"E"。まっすぐ見ていると気づきませんでしたが、角度を変えるとこの通り。とたんにくっきりと「Eだ!」と目に飛び込んできて、クリック感があった様子。
教室内を何度ぐるぐる歩いて見ても、なかなか見えてこない文字が各チームにありました。中でも「G」「R」「Y」「Z」あたりが悩みどころ...一度探したところでも、見方を変えるとどうだろう?制限時間が迫る中「…ここから見たら、Yじゃない?」「あったー!」
「あった!Kだ!」と撮影してましたが、他の人には「ん?K?どこ?」「読めない」などそれぞれ意見を言い合いながらのチームプレイ。時間がなくなり、焦る、焦る!
撮影した文字の写真は、AからZまで並べてみた時にスムーズに読めるように余白の調整をしました。ここは現代っ子ならではでiPadやPCを使いながら、視覚的なバランスを見ながら調整していきました。
「すごく文字に見える!」とみんな大喜び。撮影の時には「これはちょっとこじつけかなあ?」と思った文字があっても、切り取り加工で余白を削除したり、中心線に揃えることで、スムーズに読めてしまうことも発見でした。
前回、いろいろな姿形の文字があることを体験したラボのみんな。ここからはその「文字の形」に加え、素材や光などをていねいに作り込み、個々の文字に含まれる以上の意図を伝える制作に挑戦していきます。
まずは自分が作りたい言葉探しから。好きな曲の歌詞、行ってみたい場所にまつわる言葉、誰かとの会話に出てきた言葉…など何でも良いのですが、思い入れがあるものの方が制作はしやすい。言葉が日常生活に溢れている分、改めて考えるのはなかなか難しいものです。
テーマにしたい言葉の候補がいくつか出てきたら、自分がその言葉で伝えたい意図が何なのかを考えていきます。例えば元気でさわやかな「おはよう」なのか、それとも体が重たくてつらい「おはよう」なのか。同じ言葉でも伝えたい感覚は違います。
ラボのみんなが自分で選んだ言葉は実に多種多様。中高生らしい関心ごとである「勉強」や、猫好きから出てきた「猫吸い」「ねこ」、時折沸き起こるらしい言葉で「最悪だ!」、中にはなぜか自分の前世と信じているらしい「インド観光大使」などなど、それぞれの思い入れがあるものばかり。
それぞれテーマにする言葉が決まったら、その意図に合いそうな素材探し。 ラメ、ラインストーンなどの装飾素材、透明な素材、金属、光沢感のある布、ふわふわの羊毛や紙…その素材が、文字の形になったり、他の素材との組み合わせでどう感じられるかなど、感覚と対話するように素材を選びました。
自分が選んだ素材で文字を試作してみました。「いい感じ!」という手応えもあれば「想像していた感じと違う」という人も。最終的に写真に撮って作品を仕上げるために、接着・設置方法も検討が必要です。世界観や作り方を少しずつリアルにしていきます。
「最悪です」の文字には「絶対これが必要!」ということで用意したスライム。文字全体にまとわりつかせて確かにドロドロ…最悪な感じだ…。「とにかく最悪な感じにしたい」とのことでしたが、制作自体はなんだか楽しそう。もっともっと最悪にしちゃおう!
自分の思い込みによらず、他の人に伝わるかどうかも大切です。周りの人同士で「それわかる!」「読めないよ」「うーん、その素材でいいの?」など客観的な意見もやりとりしつつ、ていねいにひとつの言葉を作り込んでいきました。もちろんどんなふうに写真に収めるかも重要な点のひとつ。
いろいろな素材でテストしているうちに、だんだん感覚が研ぎ澄まされて、伝え方が明快になっていきます。急に「あの素材が必要だ!」とリアルにイメージが湧き起こる人がいたり、考えは膨らむけれどなかなかビジュアルにまとまらない人もいたり。それぞれのペースで進めます。
いろいろな素材のリクエストがありました。積み木、電飾、リボン、フィルム、厚めの洋書、花びら、赤い布、ろうそく、星や丸やそのほか形の銀色のパーツなどなど。トルネードにあるものを出しても「いや、なんかちがう」というものもあるようで「来週自分で持ってきます」というこだわりも。
「言葉の意味以上に伝えること」を目標に、作品の完成を目指していきます。前回の制作で自分の伝えたいことに必要な要素が何かをじっくり検討したので、この回はトルネードで新たに素材を追加したり、自身で持参するなどの様子も見られました。
文字が配置される背景も、イメージを伝えるためには重要な要素のひとつ。素材のもつ感触や意味で抽象的に表現につなげる人もいれば、「勉強してる机の上」など実際に存在しそうなリアルな様子を再現する人も。
この制作では構図やサイズ感の他に、ものの感触がとても大切になっていました。それぞれが選んだアイテムで言葉を表現していくと、そこに何かしらの感覚や感情が生まれていくのがおもしろい。
背景になるものと文字をセッティングしたら、見え方のチェックのためテスト撮影をしていきます。どんな角度で配置するか、どのアングルから撮るかも吟味しながら自分の世界観を作っていこう。
実際にカメラで撮影してみると、いろいろな素材で作った文字が「読めません!」という事態が多発。リアルで見ている時と、静止画である写真は情報量が変わるため、より文字として認識しやすくなるような工夫が必要です。
それぞれの出したい雰囲気を作り込みながら、言葉の視認性を高めるために最終調整。思い入れだけではなかなかうまくいかないため、自分の作品を客観視する力が試されます。
ここまでは自分のスマホでテスト撮影していた子たちも、本撮影はデジタル一眼レフカメラを使っていきます。「楽しい!」「たまにいいですね」と言いつつ、スタッフが驚いたのは多くの人がデジカメのシャッターボタンの場所を知らなかったこと!そ、そんな時代になってるんだね...
さらにみんなこだわりを見せていたのは、光の方向・角度について。それぞれ自分の作品にどう光を当てるかまでリアルなイメージを思い描いていたようで、すごく感心しました。文字を使った視覚表現の取り組みとしてこのような形の制作は初めての体験でしたが、新鮮な発見がありましたね!