美術の世界には、特別な人たちによって、特別な地位の人たちのために作られた希少な工芸作品が多く残されています。”民藝(民芸)”はそんな美術作品とは少し違う、「民衆による、民衆のための工芸」といわれます。
家の中にある飾りやおもちゃ、日用品など、様々な民芸品は現代でも人気です。各地に伝わる民芸品を見ながら、今回みんなで挑戦する張子について紹介しました。
主な素材は紙ですが、陶器のような真っ白い肌合いを持ち、まるっこくてどこか可愛らしい印象。細かな部分の作り込みができない分、絵付けで仕上げをしていく楽しさがあります。
今回の取り組みでは、動物系、建物系、乗り物系、キャラクター系など、どんな分野の張子でもOK!「ミジンコがいいかも」という子もいたりして、こどもたちから出てくる発想がおもしろい。
作りたい形が決まったら、さっそく粘土で原型づくり。突飛な発想で、「そんなの見たことないよ?!」みたいな形のものでも、自由に作れるのが張子のいいところ。
首をふるので有名な赤べこ。自分の作品でも「首振りはできる?」と興味津々な子が各クラスに数名。工程が複雑で難易度高めなことを伝えると「それでもやりたい!」と挑戦する子がちらほらと。
あれもいい、これもいいと迷いながらも粘土での成形は楽しそう。それぞれの原型作りを進めて、できた人からぐるぐるとブルーのフィルムで包んで仕上げます。
今回は日本に古くから伝わる和紙を使用。風合いの良さも人気のポイントですが、洋紙よりも繊維の絡みが強く、水に強いことも特徴のひとつ。濡らして絞ってもやぶれにくい、しなやかさを持っています。
張子に使うのりは、小麦のり、米のり、片栗粉のりなどいろいろな種類のものがあり、張子作家さんによって好みも様々なようです。今回は小麦のりを使いました。しかも自分たちで混ぜた「自作のり」。
のりは和紙に直接塗るのではなく、いったん机のシート上にハケで塗り広げ、そこにちぎった和紙を乗せて「和紙シール」のようなものを作ります。
まずは形の全体にぐるりとまんべんなく貼っていきたいところ。始めてみると予想していた以上に和紙を使うことがわかり、のり付きの和紙を作っても作っても、あっという間になくなっていく!
下地の青いフィルムの色が透けて見えている部分は、和紙の層がまだ足りないところ。紙が薄いと中身を取り出した後にへこんでしまうので、貼り足りないところを注意深く確認しながら進めました。
のりの染み込み方がちょうどいいと、和紙がピタッと張り付くので「気持ちいい」「楽しい!」段差やめくれがある部分は指でおさえて、最後の手段は...筆で撫でてみる!「すごくツルツル」
和紙をきれいに貼り終えたら、次回までゆっくりと乾燥させます。白い形が抽象的でおもしろく、「なんかかわいい」「どうなるのかな?」続きが待ち遠しい!
粘土の原型全体に、ていねいに紙を貼り重ねた作品を、静かに寝かすこと約7日間...水分はほぼ蒸発し、小麦粉のりでカチカチに固くなっていました。
ここから中の原型を取り出すために、固くなった紙に切り込みを入れてパカっと開く必要があります。「どのくらい切るの?」「ちゃんと出せるかな」大事な作品に刃物を当てるのはちょっとドキドキ...
おそるおそる割って開けてみると...「おおおっ!」紙の層がしっかりと作られていて、想像以上に強くてじょうぶにできていました。前回のていねいな紙貼りが功を奏しましたね。
中の粘土をすっかりきれいに取り出してみると、思った以上に軽くてびっくり。さっきまで粘土でずっしり重たかったのに...その違いになんだか愛着が増すようです。
できるだけ目立たないように、切れ目の部分を前回も使った和紙や小麦のりでていねいに接着します。
さてここからは、普段あまり見慣れない画材や技法が続々と登場。できるだけ伝統的な手法を体験できるよう、昔ながらの天然の画材を揃えました。天然のものは良くも悪くもパワーが強いため、扱いには繊細な注意が必要です。
この真っ白な粉は日本古来の顔料で、貝殻から作られている「胡粉(ごふん)」。そこに動物の皮脂からとれる「膠(にかわ)」を混ぜて、陶器のような質感に仕上がる白の絵の具を作ります。
日本の伝統人形にも使われているように、表面がツルツルでやわらかな白肌に近づきます。反対に、乾かないうちに胡粉を塗り重ねるのは絶対にNG!急激な乾燥もひび割れの要因ですのでご注意を。
「練るってどういうこと?」粉の状態に膠液を1滴ずつ落として、指1本で混ぜていきます。耳たぶくらいの硬さを目標に、状態をよくみながら「柔らかすぎず、硬すぎず」。
胡粉と膠が混ざり、だんだんまとまってきたらお皿にペチペチと叩きつける!その名も「百叩き」。作業しているうちに、だんだんとツヤが出てきました。
ツヤが出てきた胡粉の塊にお湯をかけ、3分待ってお湯を捨て、さらに少量のお湯で解く...それでやっと使える状態に。細かな工程が多く、現代の"買ったらすぐに使える絵の具"とは全然ちがうぞと実感。
今回は胡粉を筆で塗るのではなく、胡粉の中に丸ごと張子をポチャンとつけていきます。手で持つところがないため、自分の張子に棒を刺しました。「りんご飴みたい」
みんなが練って作った胡粉を集めたら、たくさんの胡粉液ができました。そこに張子を潜らせて、全体をコーティングしていきます。それぞれチャンスは1回!
「うわー」「いくぞ」長くつけると紙にしわができてしまうため、つけるのは1秒、つまり一瞬!張子は中が空洞なので、入れた途端に浮力で上がってくる。それを一気に沈めるためにちょっとコツがいります。
胡粉が塗られた張子をゆっくり移動して、そっと台に刺すところまで緊張は続きます。胡粉液の垂れを筆でやさしく拭き取ったらひと段落。時間をかけてじっくり乾かしましょう。
岩絵具は千年以上も前から受け継がれる画材。絵画や工芸、建築にも用いられる粉末状の顔料で、紙や布などの素材に定着させるために膠と混ぜて使います。
そして今回は細かな描き込みをするため、面相筆を用意しました。字の通り人や動物の顔や表情を描くための筆。穂先が細く、扱いはなかなか難しい。
顔料の前に、まずは面相筆の扱いを確かめるために墨でその描き心地を体験。「線がプルプルする...」穂先が揺れないように、ちょっとしたコツがあります。
せっかくの機会なので、ここで日本の文様についてもご紹介。「知ってる!知ってる!」「市松模様だ!」ひとつひとつに名前や由来があり、縁起ものや幸せへの願いを込めたりして使われていたことがわかりました。
日本の伝統文様をうまく生かすか?それとも全てオリジナルで進めるか?予想以上に伝統文様をどこかに使いたいな〜という子が多くいました。試しに面相筆で描いてみると「おお!」「いけそう」
首振りの赤べこ、起き上がりこぼしのタイプを選んだ子は、みんながデザイン制作をしている合間に細工をすすめました。形が完成したら、どちらもツンツン触れたくなる愛らしさ。
描きたいものが決まったら、岩絵の具の準備へ。はじめての感触に「なにこれ不思議!」「ねっとりしてる」興味津々でいろいろな声があがりました。
絵の具も筆も普段使うものとは少し違って、みんなワクワク新鮮な様子。岩絵具は、普段使っている絵の具のように伸びてくれません。しっかりと「のせていく」のがコツです。
下描きもなしに描いていくので、緊張気味。紙に描くのとは違って立体の凸凹した面に描くため、思い通りに描くのはかなり大変なはずですが...すごい集中力。
器用な子が多いのか、面相筆の扱いのコツを早々につかんで、上手に描き進める子が多くいました。色や柄が入ると自分の想像が一気に具現化してうれしそう。
白いものってなんだろう…と考えてホワイトタイガーを作ったり、マンガのキャラクターを描いたり、映画のベイマックスを作ったり。現代っ子たちの「好き」がたっぷりの仕上がりになっていきました。
日本の画材や民芸の技法に触れることは、伝統文化を学ぶ貴重な機会になります。特に、子どもたちが実際に体験することで、その魅力を肌で感じ、新たな創造にもつながることを願っています。