パウル・クレーの作品は、ちょっと不思議な印象を受けるものが多いです。こどもたちに「どんなふうに描かれているかな?」と問いかけながら、いろいろな作品を一緒に見ていきました。
絵を描くもの、つまり作品の基盤になるもののことを専門的には「支持体」と言います。普段は真っ白い画用紙などの表面に絵を描くことが多いこどもたち。でも今回は、新聞紙や段ボール、エンボス加工された紙やお菓子の箱、さらにフェルトやガーゼなどの布類まで、何に描くかを選んでいきます。
各種絵の具をはじめ、クレヨンやパステル、木炭や色鉛筆、さらにのりやボンドなど。いろんな画材を揃えてみました。道具もブラシやヘラのほか、スポンジやゴム、つまようじや紐、ピンポン玉やスプーン・フォークまで、こどもたちは「どう使えるかな?」と興味津々。
クレーの作品をみながら、「砂を使ってる?!」「網を使ってるんじゃないか?!」いろいろなアイデアが溢れ出していました。支持体と画材、道具の組み合わせによって、様々な関係をつなげながら新しい環境を組織していくのがクレー流。みんな試してみたくて早くもムズムズ...!
絵を「描く」のでなく、紙の上に「跡をつける」「模様をつける」というところからスタート。いろいろな道具によって、画材によって、また色によっても様々な表情をみせてくれます。
網を置いた上から、グリグリ、ペタペタとボンドを混ぜた絵具を塗ってみたら、こんな模様に!網を外した時の「わー!見てー!」と嬉しそうな声に、みんな興味津々で刺激を受けます。
普段は絵を描くために使わないものも、今回は絵の道具として大活躍。どんな表情を作ってくれるのか、実際に試してみないとわかりません。「まだやってないものがいっぱいある!」と、駆け足気味で制作する子も。
タルク(白い滑石の粉)は絵の具やインクに混ぜて好みの固さに調整したり、絵の具の乗りが良い下地を作るために使う画材の一つ。初めて使うので「ちょっと多めに入れちゃった」という子もいましたが、逆に絵の具が盛り上がっていくのが新鮮で、こどもたちに人気でした。
たっぷりのタルクに、ボンドやのりも沢山混ぜてみると...角のように尖って立体的な表現に。いつも使っている水彩絵の具とは違うテクスチャーが生まれ「どんどん実験しよう!」
支持体の紙素材にも様々な加工をしていました。絵の具や水で濡らすと段ボールの表面がきれいに剥がれ、「なみなみが出てきたよ!」「何を重ねたらおもしろいかな?」ひとつひとつプロセスの積み重ねで現れる新しい姿を発見していました。
色や形の魅力だけではありません。「クッチャクッチャ」「ペッタペッタ」などの音や手に伝わる感触もこの制作の楽しみのひとつ。気持ちのいい感覚を見つけると、自然と何度も繰り返したくなるものです。同じ経験でも、一度目と二度目では感じ方が違うことに気づいたりもします。
無意識に手を動かしながら偶然できあがった形にも、おもしろさを見出していました。どんなふうに作ったのか自分であまりよく覚えていないというクルクル模様が、最高のお気に入りポイントになっていました。
自然と自分の手を道具として使いはじめる子もいました。「指で描く水玉がくっきりきれい!」「筆よりいいかも?」実は以前は手が汚れるのを嫌がっていた子でした。いろいろな感覚を味わいながら体験を深めている姿が印象的でした。
絵は、絵の具を載せなくても、ペンや鉛筆を使わなくても描くことができます。この回は破けにくく、ねじれに強い支持体を追加しました。どんな展開になるかな?
気になる素材を選んだら、「何の工具を使おう?」どうなりそうか想像しつつ制作スタート。金槌でガンガン凹ませたり、尖ったもので思いっきり引っ掻いたり。「これはいい!」おもしろい表現ができそうです。
金属をドライバーでひたすら叩いたり、発泡スチロールをちぎったり、本をビリビリに破いたり...!それぞれが試したいことを自分のペースで挑戦していきました。
金属の板に、ドライバーや目打ちでいろんな大きさの穴をあけたら「キラキラして星空みたい!」力加減や角度によっても表情が変わります。道具の扱いに危険がないように注意しながら、みんな制作にどんどんのめり込んでいきます。
こちらの子は「本が欲しい!」そして「叩いていい?」さらに「やぶっていい?」やりたいことがはっきりしていて、だんだんと表現が支持体のサイズにおさまりきらなくなるほど無心に作り続けていました。
こちらの子もだんだんと絵から何かが立ち上がり始めています。選ぶマテリアルや技法によって、表現が変化していくのは自然なこと。支持体についた絵の具にも、不思議と動きやリズムが感じられます。
透明な素材に絵の具を塗り、裏返してみたら「かくれてた色がみえた!」行為が複層的に残って見えて、色が混ざり合ったり、層になって変化する様子に興味津々。「両方色が塗れる、便利!」ひとつの支持体に何度も重ね塗りをしていきました。
アルミの板を「ハサミで切ってみよう!」さらに「折ったらどうなるかな?」積み上げゲームをしているうちに、インスピレーションが刺激されてアイディアがどんどん出てくる様子。素材ごとにちがう楽しみ方を発見していきました。
こちらの子は支持体を折ってしまい、初めは「やってしまった」といわんばかりの様子。でも、ちょっと待てよ…角度を変えて接着してみたところ「おもしろいかも!」折れた形を生かした作品にすることに。
こちらの子は「いろんな道具をまだまだ使いたい!」でも「全部を試す時間はなさそう」とのことで、複数の制作を同時に進行させていました。全てに違う素材、違う技法を使って、それぞれに現れる表現の違いを探っていました。
「ビー玉にも描けるかな?!」カラフルな水玉柄の宝石のできあがり。普段はあまり思い付かないようなタイプの発想もどんどん出てきます。ワクワクしながら、道具と素材を毎回変えて新しい表現を考えていました。
したいことがはっきりしている子は、釘の選び方から真剣です。大きさや形にこだわり、打つ角度も「斜めにしたい」、さらに「釘の先が危ないから曲げたい」とペンチで曲げたり、金づちで叩いたり。ひとつひとつの過程を確認しながら進めていました。
みんなでトントン、カンカン!作品づくりの音やリズムも、制作が盛り上がった理由のひとつ。音楽家としての素養もあったクレーもきっと、音やリズムを楽しんでいたでしょう。終わりの時間が近づいても「もう1個作りたい!」どのクラスもにぎやかでした。
クレーが描いた天使のシリーズは、晩年の短い期間に集中して描かれたものです。ナチスの迫害にあい、病気を患いながら、厳しい状況の中で描かれました。シンプルな線描ですが、見ていると不思議と癒される。天使という存在にぴったりな透明感を感じさせる表現です。
前回までにみんなが作った、たくさんの作品を見たり、指で触ったりしながらチェック。当日は濡れていて触れなかったものも、乾いて触ってみるとザラザラ、ボコボコした感触がおもしろい!新たな発見やヒントがぎっしり詰まった、貴重な資料集ですね。
「目に見えないと描けないじゃん!」「でもいるかもしれないよ」「何がいるといいかなあ」それぞれいろいろんなことを話しながら制作がスタート。何だかわからないんだけど、何かが生まれそうだぞとドキドキ、ワクワク。こどもたちの話を聞いているだけでもおもしろかったです。
「どうしようかなあ」と言いながら、それぞれの準備をして、自分で選んだ画材や素材を画面上に乗せはじめました。描きたいものがはじめに決まっていなくても大丈夫!感覚をヒントに進めていけば、後から自然と生まれてくるかもしれません。
金属素材を叩いたり、紙の色と同じ画材で描画を試したり。見えるものを見えないものにする実験もはじまりました。「この紙だったら見えない!」「これだとバラバラだなあ」あれこれ手を動かしているうちに、感覚を掴んでいきました。
こちらの子は、色を混ぜることが大好きな様子。毎回、絵の具をたくさん混ぜては、ふとした瞬間にできる絵の具の模様を楽しんだり、混ざりきらない色の重なりを見ていました。混ぜ混ぜしている中で、ふしぎな存在が生まれてきそう。
こちらは水に浮かんだ発泡スチロールに色をつけはじめました。その目的は、あえて嫌いな色同士を混ぜだら、どうなるんだろう?という実験でした。「嫌いな色が合わされば、好きな色に変わるかな?」なんて、目の付けどころがおもしろい。
こちらの子のテーマは「空を飛んでる天使の赤ちゃん」。その横には天使の家族のために、テーブルとケーキ。自分で想像した場面を、いろいろな画材や素材を自由に組み合わせて使いながら制作を楽しんでいました。
はじめに、大きな顔がどーんと登場した子が各クラスに何名もいました。それぞれに表情があって、どれも個性的。素材や技法の組み合わせもおもしろく、いろいろ試しながら進めていました。
前回までの制作で体いっぱいの感覚で楽しむことを経験したキッズのみんな。「汚れたらとことん汚しちゃおう!」とばかりに体当たりするように。手を使って絵の具を触ると新たな発見がたくさん!
目には見えないものを、こんなにたくさん描いてくれた子も!1点ずつ、性格も特徴も全然ちがう存在感。おもしろそうなキャラクターばかりです。
お部屋の中にひっそりといる、ふたりの天使。家におともだちを呼びたいので、わらのプレゼントを用意したそうです。たしかに、天使って静かにこっそり暮らしていそう。
大きな作品を作り終わった後に「もうひとつつくりたい!」と生まれた作品。ツノなのか、手なのか、細部にこだわって作っていました。「ちょっとこまっている悪魔」とのことです。
クレーが「忘れっぽい天使」と作品に名前を授けたように、自分がつくった目にはみえないものにも名前をつけてみました。制作中にもう決まっていた子もいれば、しばらく考えて決めていた子も。詩的で何度見ても想像力を掻き立てられるような作品になりました。